2026年5月、横浜ホームクリニックでは「AIエージェント時代の働き方」をテーマにしたスタッフ勉強会を開催しました。院内の医師・情報戦略部スタッフに加え、外部の関係者の方々にもご参加いただき、AIが私たちの日常業務をどう変えつつあるのかを、データと具体例をもとに学ぶ機会となりました。今回の勉強会には複数の医師が参加し、医療現場におけるAI活用への関心の高さがうかがわれました。
情報工学の素養を持つ院長だからこそ
今回の勉強会の背景には、院長・大澤基の特異な経歴があります。大澤院長は大学の情報工学部に在籍した経験を持ち、医師になる以前からIT分野に深い関心と素養を持っています。「AIは医療の外側の話ではない。すでに私たちの仕事の中に入り込んでいる」という院長の問題意識が、今回の勉強会開催の原動力となりました。スタッフ一人ひとりが正しい知識を持ち、AIを安全かつ効果的に活用できるクリニックを目指して、情報戦略部が中心となって企画・運営しました。
なぜ今、AIエージェントなのか
勉強会の冒頭では、こんなクイズが出題されました。「2025年時点、企業ソフトウェアのわずか5%未満にしかAIエージェントは入っていなかった。では2026年末までに何%に達すると予測されているでしょう?」答えは40%(Gartner予測・2025年8月発表)。わずか1年で8倍という急速な拡大です。日本国内でも、日本人の45.4%が生成AIを使った経験を持ち、日本企業の29.7%がすでにAIエージェントを導入しています。「来年の話」ではなく、私たちが日常的に使っているマネーフォワードやSmartHRといったSaaSにも、AIエージェント機能がすでに組み込まれ始めています。
「これまでのAI」とは何が違うのか
ChatGPTなどの従来のAIは「質問に答える」ものでした。一方、AIエージェントは「目的のためにタスクを自分で作って実行する」ものです。1回の往復で終わるのではなく、Web検索・ファイル操作・API呼び出しを連続で行い、複数ステップを自律的にこなします。たとえば「広報カンファ資料を作って」と伝えるだけで、患者数データの取得・広報費用の抽出・過去資料の参照・競合調査・グラフ生成・方針提案まで、AIが自分で段取りを組んで実行できます。従来のAIなら「何について書けばよいですか?」と逆に質問してきていたところが、大きく異なります。また、Googleが2025年4月に発表したA2A(Agent-to-Agent Protocol)により、AIエージェント同士が連携して仕事を分担する仕組みの標準化も進んでおり、Salesforce・SAP・ServiceNowなど150社超がすでに対応を表明しています。
医療現場との向き合い方:委任・査読・責任の3原則
勉強会の後半では、AIとの向き合い方として「委任・査読・責任」という3つの原則が紹介されました。McKinsey社やHarvard Business Reviewの研究をもとに整理されたもので、①Delegate(委任する)=どのタスクをAIに任せるか自分で線引きする、②Review(戦略レベルで査読する)=細かい数字ではなく戦略的な妥当性をチェックする、③Own(最終責任は人間)=AIの判断と結果の責任は人間が取る、という考え方です。特に医療業界では「AIに責任転嫁はできない」という点が強調され、参加した医師からも共感の声が多く聞かれました。
どの業務をAIに任せるか:リスクレベルで考える
では具体的に何をAIに委ねてよいのか。勉強会では「リスクレベル」を判断軸に整理しました。保険請求のレセプト送信・個人情報の取り扱い・医療事故対応など取り返しのつかない業務は人間が最初から最後まで主導します。診療録・文書の下書き作成、患者向け案内文、院内マニュアル作成など修正可能な業務はAIに下書きをさせて人間が最後に確認するスタイルが適しています。議事録要約・Excelデータ集計・メール下書きの自動化などの定型業務はAIを中心に活用し、サンプリング確認で十分です。全部に同じ熱量で関わると、AIを入れる意味が薄れてしまいます。判断の軸はシンプルに「リスクレベル」の一点です。
数字で見るインパクト:月100時間が浮く計算
Google Cloud「AI Agent Trends 2026 Report」によると、AIとのインタラクション1回あたり平均40分の業務時間削減が報告されています。これを当院に当てはめると、1人1日30分節約×10名×月20営業日=月100時間相当が浮く計算になります。空いた時間を患者さんとの対話や医療判断に充てられれば、在宅医療の質そのものが向上します。AIの導入は業務効率化にとどまらず、患者さんへのケアの質を高めるための手段でもあるのです。
勉強会を終えて:触り続けることが重要
今回の勉強会を通じてスタッフ全員に共有されたメッセージは、「完璧に使いこなす必要はない。触り続けてみる勇気が大切」というものでした。Deloitteの調査によると、エージェンティックAI導入を計画している企業の73%が2年以内に実装予定である一方、成熟したガバナンスを持つのはわずか21%。ルールを整備した組織が、これから大きく抜きん出ます。当院でも今後、情報戦略部カンファレンスで「AIにこう任せたら、こうなった」という実践事例を積み重ね、クリニック全体の取り組みとして発展させていく予定です。スタッフ一人ひとりがAIと共に働く感覚を育てながら、患者さんに寄り添う在宅医療をさらに充実させてまいります。
この記事は、 横浜ホームクリニック 院長 大澤基医師が監修しました。