認知症の周辺症状(BPSD)
今回は、認知症の周辺症状(BPSD)について解説していきます。
認知症の進行に伴い、以下のような周辺症状が現れることがあります。
- 幻覚・妄想(例:見えないものが見える、盗られ妄想)
- 易怒性・攻撃性(例:突然怒る、暴力をふるう)
- 抑うつ・無気力(例:意欲が低下し、活動しなくなる)
- 徘徊(例:目的もなく家を出て行方不明になる)
- 不安・焦燥(例:何かに怯えたり、落ち着きがなくなる)
- 睡眠障害(例:昼夜逆転、夜間の興奮)
これらの症状は患者のQOLを低下させるだけでなく、介護者の負担を大きく増やす要因となります。その結果、介護者自身がうつ病や不安障害などの精神的な不調をきたすこともあります。そのため、生活指導や環境調整、薬物治療が必要になります。
介護負担を軽減するための対応策
生活指導
認知症の周辺症状を和らげるためには、生活リズムの調整と、本人の自尊心を傷つけない対応や嫌がることを強要しないことが大切です。
- 規則正しい生活習慣の確立(毎日の起床・就寝時間を一定にする、1日3食食べるなど)
- 支持的な介入(失敗や間違いを責めない)
- リラックスできる時間の確保(好きな音楽を聴く、趣味の時間を作る)
環境調整
環境の整備によって症状の悪化を防ぐことができます。
- 適度な刺激の提供(カレンダーや時計を活用する)
- ケアマネと協力し、社会資源の調整(昼夜逆転にデイサービス導入、セルフケア低下にヘルパーなど)
- 夜間の安眠を促す環境作り(暗く静かな寝室を整える、日中の光をしっかり浴びる)
薬物治療とその効果
認知症周辺症状の緩和には、適切な薬物療法が用いられます。
- 気分安定化薬(例:バルプロ酸ナトリウム など)
- 非定型抗精神病薬(例:リスペリドン、クエチアピン など)
漢方薬(例:抑肝散 など)
薬物療法により、認知症に伴う焦燥感や攻撃的言動、睡眠障害、不安、妄想といった症状の改善が期待できます。
適切な薬剤を選択し、患者様の症状に応じた治療を行うことで、患者様のQOLの向上と介護者の負担軽減が可能となります。
唯一周辺症状に適応のある薬:ブレクスピプラゾール(レキサルティ)
2024年9月に、日本国内で唯一、「アルツハイマー型認知症に伴う焦燥感、易刺激性、興奮に起因する、過活動又は攻撃的言動」に対する適応が承認され、ブレクスピプラゾール(商品名:レキサルティ)が使用可能となりました。特徴は下記のとおりです。
- 副作用が比較的少なく、安全性が高い
- 攻撃性や興奮を抑える効果が期待できる
- 比較的新しい薬剤であり、適応が明確
デメリット
- 薬価が高く、コストがかかる
- 長期的なデータがまだ限られている
抗認知症薬:認知症の進行を抑制する薬
抗認知症薬は下記があり、内服の可否等によって使い分けされます。
薬剤名 | 作用機序 | 剤形 |
---|---|---|
ドネペジル(アリセプト) | コリンエステラーゼ阻害薬 | 経口(OD錠、フィルム、内服ゼリー、内用液)、貼付 |
リバスチグミン(イクセロンパッチ) | コリンエステラーゼ阻害薬 | 貼付、内用液 |
ガランタミン(レミニール) | コリンエステラーゼ阻害薬 | 経口(OD錠、内用液) |
メマンチン(メマリー) | NMDA受容体拮抗薬 | 経口 |
横浜ホームクリニックの取り組み
当院では、認知症患者様の在宅診療においても、最新の治療を提供し、患者様とそのご家族の生活の質を向上させることを目指しております。今後も地域の医療連携を強化しながら、より良いケアを実現できるよう努めてまいります。
今回は、昭和大学横浜市北部病院神経内科の渡辺拓哉先生を発表者としてお迎えし、「精神科診療で考えていること」をテーマに、認知症周辺症状についての勉強会を開催いたしました。今回のクルズスでは、認知症の周辺症状(BPSD)について詳しく学ぶとともに、睡眠障害など幅広い精神疾患についても議論し、それらの症状による介護負担の増加と、それを軽減するための対応策について学びました。また、抗認知症薬についても学び、具体的な薬剤名と剤形の違いを比較しました。
今後ともよろしくお願いいたします。
文責:横浜ホームクリニック 院長 大澤基
発表者
昭和大学横浜市北部病院 神経内科 渡辺拓哉 先生
参加者一覧
- 元昭和大学横浜市北部病院 循環器内科 / 現 きくな小児科皮ふ科内科クリニック 沼尻嵩生 先生
- あろは薬局 亀ヶ谷 健 様
- あろは薬局 亀ヶ谷 久栄 様
- フォーライフ薬局 松田 様
- センター北あおい薬局 鈴木 様
- 看護師 永田梨夏 様
- 横浜ホームクリニック 大澤基
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