2026年7月、横浜ホームクリニックでは「喘息・肺気腫(COPD)の管理について」をテーマにした勉強会(クルズス)を開催しました。今回の発表は、当院非常勤医師で呼吸器を専門とする江波戸貴哉医師。院内の医師・看護師・臨床検査技師・情報戦略部スタッフに加え、外部からあろは薬局の薬剤師にもご参加いただき、在宅療養の現場で呼吸器疾患をどう支えていくかを職種の枠を超えて学びました。当院が開院以来続けている月1回の勉強会の様子をご紹介します。
喘息と肺気腫(COPD)は、似ているようで異なる病気です
どちらも「息が苦しくなる」「咳や痰が続く」という共通の症状がありますが、成り立ちは異なります。喘息は気道の炎症によって空気の通り道が狭くなり、その狭まりが治療や時間の経過で元に戻りやすい(可逆性がある)のが特徴で、夜間や早朝に症状が強くなる、季節や環境で変動するといった傾向もみられます。一方、肺気腫を含むCOPD(慢性閉塞性肺疾患)は、長年の喫煙などによって肺の組織そのものが壊れ、気流の制限が元に戻りにくい点が大きな違いです。坂道や着替えなど、体を動かしたときの息切れから気づかれることが多くあります。高齢の方では両方の性質を併せ持つ場合もあり、症状だけで見分けるのは簡単ではありません。
COPDの「自然史」と、治療が目指す2つの目標
発表では、COPDが何十年もかけてたどる経過(自然史)を一枚の図で示していただきました。喫煙などをきっかけに40歳前後から少しずつ呼吸機能が低下し、症状の自覚・診断を経て、増悪を繰り返しながら身体活動性が落ち、やがて在宅酸素療法や介護の導入に至る──という長い時間軸の中で、どの時点にどう介入するかを考える視点が印象的でした。

そのうえで示されたのが、COPD治療の管理目標です。ひとつは「現在の改善」=症状とQOL(生活の質)の改善、運動する力と身体活動性の向上・維持。もうひとつは「将来リスクの低減」=増悪の予防と、病気の進行を抑えて健康寿命を延ばすことです。「今つらくないようにすること」と「これから悪くしないこと」は別々の目標であり、その両輪で考える必要がある。在宅医療の現場に通じる考え方として、参加者から共感の声が上がりました。
在宅療養で最大の関門は「吸入薬がきちんと肺に届いているか」
喘息もCOPDも、治療の中心は吸入薬です。ところが勉強会で最も時間を割いて議論されたのは、薬の種類選びよりも「処方された吸入薬が、実際に正しく使えているか」という点でした。ご高齢の方では、息を強く吸い込む力が弱い、手指の力が低下している、認知機能の影響で手順を覚えておくことが難しいなど、吸入がうまくいかない理由はさまざまです。対策としては、補助具(スペーサー)を使う、吸う力に合わせて吸入器の種類を見直す、ネブライザーに切り替えるといった選択肢が紹介されました。訪問診療では、ご自宅で実際に吸入している場面をその場で確認できるため、外来では気づきにくいつまずきを見つけて調整できます。訪問看護師や訪問薬剤師と手技の確認を分担することも有効です。
「増悪」をいかに早く捉えるか
喘息もCOPDも、風邪や気候の変化をきっかけに症状が急に悪化する「増悪」を起こすことがあります。増悪は体力の低下や入院につながることもあるため、早く気づいて早く手を打つことが何より重要です。勉強会では、痰の量や色が変わった、夜に横になると苦しい、食事や会話の途中で息が切れる、いつもより動きたがらない、といったご家族や介護スタッフが最初に気づく「小さな変化」が重要なサインになると強調されました。パルスオキシメーターでの酸素飽和度(SpO2)測定も参考になりますが、数値が下がる前に変化が現れることも多く、日々の様子と併せて見ることが大切です。
呼吸を支える暮らしのケアと、増悪を防ぐ備え
息切れがつらいと体を動かさなくなり、筋力が落ちてさらに息切れしやすくなる悪循環に陥りやすいため、無理のない範囲で体を動かし続けること、痩せすぎを防ぐ栄養管理が、呼吸機能そのものを守ることにつながります。呼吸が楽になる姿勢の工夫や、息を吐くことを意識した呼吸法も紹介されました。在宅酸素療法(HOT)を導入されている方については、機器の管理や外出時の扱いも含めて生活全体で支える視点が共有されました。予防の面では、禁煙と、インフルエンザ・肺炎球菌などのワクチン接種が増悪や重症化を防ぐ基本になることが確認されました。実際にどの治療や予防を行うかは患者さんごとに異なりますので、主治医とご相談のうえ決めていきます。
職種の枠を超えて学ぶ場として
今回のクルズスには、以下のメンバーが参加しました。
- 江波戸 貴哉 医師(発表者)
- 大澤 基 院長
- 藤岡 立樹 医師
- 見代 健太 医師
- 福田 早織 医師
- 喜多 英梨香 看護師
- 佐々木 俊輔 臨床検査技師
- 村上 遥花 情報戦略部スタッフ
- 亀ヶ谷 健 薬剤師(あろは薬局)
今回のクルズスで共有されたのは、呼吸器疾患の管理は「診察室での判断」だけでは完結せず、ご自宅での吸入手技、日々の小さな変化、ご家族の気づきの積み重ねの上に成り立っているということでした。江波戸先生、貴重なご発表をありがとうございました。当院では今後も毎月の勉強会を継続し、学んだことを日々の訪問診療に還元してまいります。喘息やCOPDをお持ちで、息切れや通院の負担から受診が難しくなっている方がいらっしゃいましたら、ぜひお気軽にご相談ください。
この記事は、 横浜ホームクリニック 院長 大澤基医師が監修しました。